シンポジウムへの池田先生のメッセージ

SEIKYO online (聖教新聞社):随筆など

シンポジウムへの池田先生のメッセージ 2017年6月3日

「教育のための地球社会」へ 世界の大学との連帯を強く
シンポジウムが行われた会場の入り口。この地を周恩来総理は幾度も訪れた

 一、人類が直面する課題の打開へ英知を結集されゆく討議に、私は心より敬意と感謝を表するものであります。
 今回のテーマは、「平和」「分かち合い」「行動」と掲げられております。
 簡潔でありながら、環境問題、難民問題、テロや核拡散など、あまたの難題を抱える世界にあって、今一度、私たちが立ち返るべき規範が明確に示されているのではないでしょうか。

寛容と団結の智慧がここに

 一、私は、今、ここ広東の天地で生誕された孫中山孫文)先生の不滅の宣言を思い起こしております。
 すなわち――「平和主義を持して、わが友邦とますます親睦を深め、中国を国際社会にて重視せられるものとなし、かつ、世界を漸次、大同に赴かしめんとするものである。順を追って進み、僥倖は願わない」と(伊地智善継・山口一郎監修『孫文選集第3巻』社会思想社刊)。
 大同の世、すなわち平和な地球社会という揺るぎなきビジョンに向かって、人類の良識と苦楽を分かち合いながら、断固として一歩また一歩、不撓不屈の行動によって世界史を前進せしめようとする烈々たる気概が伝わってきます。
 それは、この広州で夫妻として新たな出発をされた周恩来総理と鄧穎超先生が受け継がれた大精神でもあります。
 このシンポジウムは、こうした偉大な先人の「平和」の大志を現在に承継し、さらに実現へと近づけんとする集いであります。そして、未来の世代まで確固と信託しゆく高邁な大情熱に漲っております。
 まさしく、時を超えた崇高な「分かち合い」が、ここにあると、私は讃えたいのであります。
 一、貴国で翻訳され、集大成された仏典の中に、「四摂事」という徳目が説かれております。すなわち、共同体を栄えさせていくための四つの指標であります。
 第一に「布施」――人々に何かを与えゆくこと。励ましや希望の哲学を贈り、不安や恐れを取り除くことも含まれます。
 第二に「愛語」――思いやりのある言葉をかけること。
 第三に「利行」――他者のために行動すること。
 第四に「同事」――人々の中に入って共に働くこと。
 ここには、いかなる差異も包み込んでいく寛容の智慧とともに、いかなる試練にも屈しない団結の智慧が示されています。
 それは、悠久の中国の大地に脈々と流れ通ってきた伝統文化とも響き合っているといってよいでありましょう。

レジリエンスを高める伝統文化

 一、この5月、私は、貴国を代表する文豪の王蒙元文化相と、新たな対談集を発刊いたしました。
 タイトルは『未来に贈る人生哲学――文学と人間を見つめて』であります。
 王蒙先生は、2008年の「四川大地震」の際にも、中国の伝統文化の力が大きく発揮されたと指摘されております。一つは「逆境にあって抵抗する能力とその精神」、二つは「結束力」、三つは「仁愛(慈しみ)の心」であります。
 それは、「平和」「分かち合い」「行動」という本シンポジウムのテーマとも連動して、人類全体のレジリエンス(困難を乗り越える力)を高めゆく希望であるといえないでしょうか。
 こうした希望の光を、より強め、深め、結び合わせていく契機が、教育・文化の次元の交流であると、私は思ってきました。
 先日、中山大学南方学院において、光栄にも「自然との対話」の写真展を開催していただき、その準備に当たった日本側のスタッフが心より感銘し、感謝していたことがあります。
 先生方に温かく見守っていただく中、主体的に運営に当たってくださった学生の皆さん方の労を惜しまぬ献身であり、みずみずしい創意工夫であり、こまやかな心配りであります。

問題解決へのプラスの連鎖

 一、また今春、日本では、両国の国交正常化45周年を記念して、私どもの民主音楽協会民音)の招聘で、中国国家京劇院の方々が2カ月にわたり、全国で52回の公演を行ってくださいました。
 「愛」と「正義」と「報恩」をテーマとした三大傑作が熱演され、学校コンサートに招かれた中学生たちを含め7万5000人に、忘れ得ぬ感動を贈ってくださったのです。
 周総理も大事にされた京劇には、「人間の善性」への確固たる信頼が脈打っており、国を超え、世代を超えて、魂の共鳴と啓発を広げずにはおかないのでありましょう。
 さらに、わが創価大学の伝統行事である、周総理ご夫妻を偲びつつ、平和友好への決意を新たにする「周桜」の観桜会は、中国の学生の皆さんも迎え、今年も有意義に行われました。
 一、ともあれ、一切の焦点は、青年であり、若人であります。
 私も本年の平和提言を、「希望の暁鐘 青年の大連帯」と題して展開いたしました。「青年の数だけ希望があり、未来がある」との信条からであります。
 そして、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が目指す“平和で公正かつ包摂的な社会”を実現するために、青年を中心とする「三つの柱」について論及いたしました。
 ①「同じ地球で共に生きる」との思いに立った連帯
 ②分断や格差の拡大を乗り越える社会の土壌づくり
 ③どんな困難に直面しても、状況を好転させる力――の三本柱であります。
 地域の課題にあっても、グローバルな脅威においても、青年を信じ、青年の力を引き出し、青年と共に行動を重ねていくところにこそ、問題解決へのプラスの連鎖が生まれていくことを、私は確信してやみません。
 その意味において、世界の大学の平和のネットワークがますます重要となっております。
 難民の支援にあっても、世界の大学が国連と連携して教育機会を少しでも拡大していく意義は、誠に大きいでしょう。
 わが創価大学も、国連難民高等弁務官事務所UNHCR)と「難民高等教育プログラム」の協定を結び、今春から難民の留学生の受け入れの第一歩を踏み出したところです。
 一、今、私は、宋慶齢先生の言葉を思い起こしております。
 「私たちには多くの愛があり、その愛を遠く離れ、いまだ苦しみの中で過ごしている子どもたちに分け与えることができると、深く信じています。
 私たちが平和を勝ち取る闘争に身を捧げる中で、各国の父母たちにも手を差し伸べることができるでしょう。世界の全ての人々は、皆、子どもたちに平和で豊かな生活をさせてあげたいという同じ目標を目指していると、私は確信しているのです」と。
 ここに謳われている「人類の平和」と「世界の子どもたちの幸福」という悲願を、敬愛する先生方と分かち合い、「教育のための地球社会」という未来へ、さらに力強く行動しゆく決意を申し上げ、私のメッセージといたします。
 本日は、誠に誠にありがとうございます。改めて心より、厚く御礼申し上げます。謝謝!(大拍手)