〈幸齢社会〉 人生100年時代の備え

SEIKYO online (聖教新聞社):介護・幸齢社会

〈幸齢社会〉 人生100年時代の備え 2017年7月12日

「学び直し」で次のステージへ
行動科学マネジメント研究所 所長 石田淳さん

 “人生100年”ともいわれる今の時代、自分や配偶者が長生きすることに対して何をどう準備すればいいのか、行動科学マネジメント研究所所長の石田淳さんに聞きました。(写真は本人提供)

人ごとではない

 今から約30年後、日本人の平均寿命は100歳を超えるともいわれます。今50歳の人は80歳になり、あと20年ほど生きる計算。勘の鋭い人なら「老後資金が足りるのか」と心配になるでしょう。
 最近は“老後破産”ともいわれる、長寿という喜ばしい事態が招くリスクも知っておく必要があります。でも私がセミナーで会う中年男性は、どこか人ごと。長生きするのは自分なのに、自分事と思えない人が少なくありません。具体例を紹介しましょう。
 ――50歳の会社員Aさんは「今後のキャリアプラン」と称して人事部に呼び出され、三つの選択肢を示された。
 ①55歳前に早期退職なら、退職金が上乗せ②60歳の定年退職なら、55歳から給料減額で退職金は満額支給③60歳の定年後も希望すれば65歳まで勤められるが、給料は新入社員並み――というもの。
 ほぼ予想通りで、妻と相談していたAさんは③を選択。その晩、妻に報告しました。
 「何とか65歳までは勤めることができそうだよ」
 ねぎらってくれると思っていたところ、妻は不安そうに「その後どうするの?」と。Aさんは思わず「もっと働けって言うのか」と声を荒らげてしまったそうです。
 その後、初めて老後資金についてシミュレーションを。夫婦二人の生活費は最低でも毎月25万円ほど掛かり、少し余裕のある暮らしには35万円は必要だと知りました。
 そして年金を含めない計算で「毎月30万円を自分たちで何とかしなければならない」と。80歳まで生きるとして、65歳で退職したら残り15年。30万円を180カ月分なので5400万円も必要なのか、と青ざめたと言います。

小さなゴールを

 Aさんは今の50歳前後の典型的なサラリーマンですが、その思惑は外れるでしょう。80歳で亡くなるとは限らないからです。少なくとも夫婦のどちらか一方は100歳まで生きる時代が来るのです。
 私は今の中年男性に「人生100年」への発想転換を勧め、85歳まで働くことを提案しています。それは必ずしも正社員としてではなく、少しでも収入を得られる状態にするもの。方法は仕事と投資の主に二つで、バランスが大切ですが、リスクの高い投資は避けた方が無難でしょう。
 仕事を考える際、まず行うのは「社名や肩書を外して自分に何ができるのか」という“棚卸し”。〇〇ができる、という売りがないと再就職は困難です。笑い話で「部長ができます」と答えた人も。求められるのはスキル(技能)であり、お勧めはプログラミングや英語などです。
 85歳まで仕事をするために不可欠な要素は、自分を磨き続ける努力であって、中年には「学び直し」も必要です。何歳からでも新しいことを始めるのは楽しいもの。でも、最初は大きな目標を立てないことを勧めています。
 行動科学マネジメントでは例えば「週2冊、本を読む」「月1回、ビジネススクールに通う」など、確実に達成できる小さなゴールを設定。それを繰り返して大きなゴールに到達します。大事なのは、継続することです。
 学び直しには、起業家を目指す観点も大切ですが、安易な早期退職はしない方がいいでしょう。今の会社で給料をできるだけ長くもらい、可能なら副業をする方が得策。起業の見込みが甘かった失敗例を数多く見てきました。

幸福感を鍛える

 もし、今の会社の出世競争で自分は負けたと感じていても、100歳までの人生は、これからです。学び直しで、“逆転”可能な第2・第3のステージが待っています。
 とはいえ、それは「健康」であってこそ。①体が健康で②頭が認知症にならず③心がうつにならないこと――この3点を心掛けましょう。
 そのために、食事と運動が重要なことは言うまでもありません。100歳までの健康づくりは40代には始めるべきで、50代ではギリギリ。健康診断で危険な信号が出たら要注意。良い食事と運動の習慣を身に付けてください。
 また、人生を充実させるには「生きがい」も重要です。好きなことをしたり、人との温かい交流をしたりすると、私たちは生きがいを感じるもので、人間には趣味と友人が欠かせないと思います。
 趣味は、体を動かすアウトドアのものと、頭を働かせるインドアのものの2種類持つのが理想的。友人は、一般に会社員の男性が苦手な“地域との関わり”で、新たな友を作るようにしましょう。
 既婚者にとって、忘れてはならないのが、配偶者。退職後も40年近く一緒に過ごし、健康に最も気を配ってくれる相手です。その関係をおろそかにせず、50歳になったら、配偶者との会話を倍に増やすくらいがいいですね。
 何より重要なのは、ささやかな幸せを感じる習慣です。人は考え方一つで、幸せにも不幸にも感じるもの。この、お金では買えない心の能力を鍛えるには「今日あったいいことを三つ書き出す」作業が効果的。「娘が笑っていた」「昼食がおいしかった」など、どんなことでも構いません。
 50歳の人なら100歳まであと50年――1年365日、三つずつ書き出したら、ノートは5万5000近い「いいこと」で埋め尽くされます。私はそういう人生にしたいと思っています。

 いしだ・じゅん 一般社団法人行動科学マネジメント研究所所長。株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者。米国の行動分析学会ABAI会員・日本行動分析学会会員。米国ビジネス界で成果を上げる行動分析を基にしたマネジメント手法を、日本人に適したものにアレンジして「行動科学マネジメント」として確立。著書に『教える技術』(かんき出版)など多数。