〈世界広布の大道――小説「新・人間革命」に学ぶ〉 第11巻 解説編 2019年9月25日

紙上講座 池田主任副会長
ポイント
広宣流布は言論戦
②草創の精神を胸に
③根本的な平和の道
高層ビルが立ち並ぶブラジルの金融・経済の中心地サンパウロ。池田先生に、同市から「名誉市民」称号が贈られている(1984年2月、先生撮影)

 今回の「世界広布の大道 小説『新・人間革命』に学ぶ」は第11巻の「解説編」。池田博正主任副会長の紙上講座とともに、同巻につづられた珠玉の名言を紹介する。次回は、第12巻の「基礎資料編」を10月2日付に掲載予定。(第11巻の「基礎資料編」は9月4日付、「名場面編」は11日付、「御書編」は18日付に掲載)

 小説『新・人間革命』完結から1年となる今月8日、東京・信濃町の総本部に「創価学会 世界聖教会館」が竣工しました。
 同会館の入り口には「聖教新聞 師弟凱歌の碑」が設置されています。碑文は、「9・8」に寄せて、池田先生が記したものです。
 碑文の冒頭に、「広宣流布とは言論戦である。仏法の真実と正義を叫ぶ、雄渾なる言葉の力なくして、創価の前進はない」とあります。
 第11巻の「暁光」の章には、山本伸一がブラジルのリーダーに、言論戦について語る場面が描かれています。
 「言論といっても機関紙などに原稿を書くことだけではない。むしろ、重要なのは、肉声の響きであり、一対一の対話だ。(中略)仏法と学会の正義と真実を、語り抜いていくことこそ、最も大切な言論の白兵戦です」(67ページ)
 対話を通して、一人また一人と心を通わせ、学会理解を広げていくことこそ、広宣流布の実像です。
 また、碑文には、「聖教の姉妹紙誌は今、五大州に智慧の光を放ち、(中略)『人間の機関紙』の論調は世界同時に行き渡る」ともあります。「開墾」の章では、ペルーで発刊されるスペイン語の機関紙の名前を、伸一が「ペルー・セイキョウ」と命名したことがつづられています。今、世界50カ国・地域で80以上の聖教の姉妹紙・誌が刊行されています。
 世界聖教会館の開館を迎える今この時、私たちは聖教新聞を活用しながら、「一対一の対話」に、勇んで挑戦していきたいと思います。

時代を変える力

 「暁光」の章では、学会に対する誤解や偏見が強かった、軍事政権下のブラジルでの、同志の苦闘が描かれています。伸一は、それらを打ち破るため、積極的にマスコミなどと対話します。
 また、メンバーの心に、何があっても揺るがない信心の柱を打ち立てようと、「難と戦うことこそ、自己の生命を磨き、境涯を高めゆく直道であり、人間革命のための飛躍台なんです」(38ページ)と励ましを送ります。
 ブラジルの同志は、社会から信頼を勝ち得るために、真剣な祈りから出発します。その先頭に立ったのは、婦人部でした。
 伸一は婦人部のリーダーに、「時代を変えていく本当の原動力は、婦人の祈りであり、生活に根ざした婦人の活動なんだ。婦人の力は、大地の力といえる。大地が動けば、すべては変わる」(67ページ)と語ります。
 日本出身の彼女は、真剣勝負の唱題を重ね、ポルトガル語を書いた紙を頼りに、数十キロも離れたメンバーの家へ、毎日のように激励に通います。こうした激闘によって、ブラジル広布に立ち上がる同志が次々と誕生しました。
 その精神は、「ムイト・マイス・ダイモク(もっと題目を)!」との合言葉となり、現在のブラジルSGIに脈打っています。草創の戦いが受け継がれているのです。
 伸一がブラジルを初訪問した1960年(昭和35年)10月、海外初の支部が結成されました。その後、ペルー、ボリビアパラグアイ、アルゼンチン、ドミニカ共和国中南米各国にも支部が誕生します。「開墾」の章には、こうした歴史的には仏法と全く無縁の国々で、いかにして学会理解が広まっていったかが記されています。
 いずれの国でも、「その作業は、石だらけの大地を耕し、畑を作り上げるような、苦闘の連続」(209ページ)でした。しかし、メンバーは、よき市民として社会に貢献し、信頼を広げていきました。
 その根底にあったのが、伸一との「心の絆」です。派遣幹部が訪れたアルゼンチンでは、伸一の次のような伝言が紹介されます。
 「日本とアルゼンチンは、地球の反対側にあり、遠く離れていますが、広宣流布に生き抜く人の心は、私と一体です。私の心のなかには、常に皆さんがいます」(166ページ)
 私たちは、草創の苦闘を決して忘れてはなりません。その魂こそ、師との「心の絆」です。「師弟の精神」は、出会いの有無ではなく、心に師を抱き、師への誓いを果たそうと、懸命に行動する中に脈動するのです。

20世紀最後の連載

 第11巻の連載期間は、2000年(平成12年)5月から同年末までの、20世紀最後の時に当たります。「躍進」の章に「二十世紀は戦争につぐ戦争の世紀」(338ページ)とありますが、そのことを象徴する出来事として、「常勝」の章に、ベトナム戦争の詳細がつづられています。
 ベトナム戦争は、1966年(昭和41年)には“泥沼”の様相を呈していました。伸一は、1月の首都圏の高等部員会、11月の青年部総会、翌年8月の学生部総会で、ベトナム戦争について言及しています。これらの発言に対して、政治家などの圧力が予想されましたが、「戦争で真っ先に死んでいくのは青年であり、最大の犠牲となるのは罪もない民衆である」(282ページ)との信念から、戦争解決のための提言などを発表していきました。
 伸一の提言に、大きな反応を示したのは、アメリカの青年部員たちでした。「徴兵され、あるいは職業軍人として、ベトナムに行かねばならない人も、少なくなかった」(295ページ)からです。メンバーは、仏法には戦争をなくす方途が説かれているはずだと確信し、御書や伸一の講義を懸命に研さんしていきます。
 そして、「根本的な平和の道は、一人ひとりの人間の生命を変革する以外にない。つまり、人間の心のなかに、崩れざる“平和の砦”を築く、“人間革命”しかない」(302ページ)との結論に達します。ここに、仏法者としての根本的なあり方が明確に示されています。
 73年(同48年)1月、伸一は米大統領宛てに停戦を訴える書簡を送ります。その書簡は、「『提言の書』であると同時に、『平和への誓願の書』であり、また、『諫言の書』」(315ページ)でした。「戦争の世紀」だった20世紀から、21世紀を「平和の世紀」にしなくてはならない、との信念に基づく、やむにやまれぬ行動でした。
 それは、日蓮大聖人が「立正安国論」をもって、国主諫暁をされた精神に通じるものがあると思えてなりません。
 「躍進」の章の最後に、大聖人の迫害との闘争が記述されているのは、“大聖人の精神を21世紀にも伝え、実践していこう”との池田先生の思いが込められているのではないでしょうか。
 これからも、大聖人の御精神のままに、いかなる困難も恐れず、広布拡大にまい進してまいりましょう。

名言集

●信心の証
 信仰の道は、決して平坦ではないでしょう。険しい上り坂もあります。嵐の夜もあるでしょう。だが、何があろうが、負けないでいただきたい。負けないということが、信心の証なのであります。(「暁光」の章、57ページ)

●祈りから始まる
 思いやりも、友情も、祈りから始まる。祈りこそ、人間と人間を結びゆく力である。(「開墾」の章、143ページ)

●一人への励まし
 世界広布という崇高にして壮大な作業もまた、そこに生きる一人の人間から始まる。ゆえに、その一人を力の限り、生命の限り、励まし、応援することだ。(「開墾」の章、160ページ)

●学会精神
 学会精神とは――人びとの幸福のため、世界の平和のために戦い抜く、慈悲の心である。何ものをも恐れず、苦難にも敢然と一人立つ、挑戦の心である。断じて邪悪を許さぬ、正義の心である。(「常勝」の章、264ページ)

●日々発心
 持続というのは、ただ、昨日と同じことをしていればよいのではありません。「日々挑戦」「日々発心」ということです。信心とは、間断なき魔との闘争であり、仏とは戦い続ける人のことです。(「躍進」の章、366ページ)

 ※『新・人間革命』の本文は、聖教ワイド文庫の最新刷に基づいています。

 【題字のイラスト】間瀬健治