マーナブ・ラチャナ大学「名誉哲学博士号」授与式から 池田先生の謝辞(代読) 2019年9月26日

マーナブ・ラチャナ大学「名誉哲学博士号」授与式から 池田先生の謝辞(代読) 2019年9月26日

生命は生命によって磨かれる
慈愛の励ましで多彩な人華をこの大地に
創立者の魂・総長の確信「教育に限界なし! 自分が可能だと思う未来を描け」
インドの発展に尽くす友をたたえ励ます池田先生(1992年2月、インド・ニューデリーで)。自らの「振舞」を通して民衆の連帯を広げてきた

 一、このたびは、目覚ましい大発展を遂げゆかれる希望の大国インドにおいて、最先端の高等教育を通し、卓越した英知の人材を陸続と輩出される貴マーナブ・ラチャナ大学より、栄えある「名誉哲学博士号」を賜り、心より感謝申し上げます。
 貴大学が冠された「マーナブ・ラチャナ」との名称は、ヒンディー語で「人間(マーナブ)」と「創出(ラチャナ)」を意味し、モットーの「より良き人間を育成する」との意義が込められていると伺いました。
 総長と副会長のご尊父であり、貴大学の創立者であられたO・P・バッラ博士は、一人の「人間」の尊厳と無限の可能性に光を当てた、崇高なる教育の理念と、革新的ビジョンを掲げ、インド社会の繁栄に、不滅の貢献を果たされました。
 そして、博士の二人のご子息が、偉大なるご尊父の構想を受け継ぎ、共に力を合わせて実現しておられる姿に、私は心からの感銘を禁じ得ないのであります。
 まことに父と子が、不二の使命の道を共に進み抜く「父子同道」には、最も尊く麗しき人生のロマンの劇があるからであります。
 本日、創造性豊かな知性と人格のリーダーを育む最高学府として、インドそして世界の教育界を勇躍リードされる貴大学の誉れも高き一員とさせていただきました。
 この栄誉を、わが敬愛してやまないインド創価学会の宝友たちと分かち合わせていただくことができ、これほどの喜びはございません。誠に誠にありがとうございました(大拍手)。
 一、私は、「精神の大国」インドは「教育の大国」インドであると思う一人です。
 いにしえより、釈尊の前世の物語である「ジャータカ物語」や、世界最古の児童向け書籍とされる古代説話集「パンチャタントラ」などが広く民衆教育のテキストとして愛されてきました。世界的に有名な大叙事詩マハーバーラタ」や、「ラーマーヤナ」は、実に幾千年という悠久の歴史の中で、南アジアの国々にも広がり、民衆の心に優れた道徳や価値観を育み、豊かな人間教育の大地を耕してきたのであります。

置き去りにしない

 人類の教師たるインドの釈尊が説いた法華経には、万物の多様性と共生を明かした「三草二木の譬え」があります。
 天から普く降り注ぐ慈雨に潤されて、大地にはさまざまな種類の草木が各々に成長を遂げつつ、多彩な花を咲かせ、多様な実を結んでいきます。
 それと同じように、人間も生命尊厳の哲理に浴し、慈愛の励ましを受けることで、それぞれの個性を存分に発揮しながら、人華を咲き薫らせていくことができるというのであります。
 ここには、誰一人として置き去りにされることのない、平等にして、多彩に生命を慈しみ育む人間教育の真髄が示されているのではないでしょうか。
 こうしたインドの天地に流れ通う、深遠なる教育の英知と慈愛を、生き生きと現代に開花させてこられたのが、まさしく貴大学なのであります。
 創立者のO・P・バッラ博士の深き人間愛に象徴されるように、貴大学の理念には、生命への温かい眼差しがあり、民衆へのあふれるばかりの愛情があります。私もまた、この熱情こそが教育の出発点であり、終着点であらねばならないと考えてきました。
 教育の究極の目的は、一人一人の成長と幸福であり、人間は人間によって、生命は生命によってしか磨かれません。
 一、さかのぼれば、インドにおける大学の淵源には、悠遠なる歴史と伝統があります。およそ、紀元前6世紀から紀元後の5世紀にかけて栄えた古代インドのタキシラ大学や、5世紀から12世紀に発展したナーランダ大学は、まさに人類の誇る偉大な知性の遺産であります。
 なかでも、タキシラ大学では、古典ヴェーダから、言語、哲学、医学、音楽、舞踊まで幅広く学ばれ、遠くバビロン、ギリシャ、シリア、中国からも求道と向学の学徒が集い、学生数は1万人を超えたといいます。
 このタキシラ大学の教育の最大の特徴は、単なる知識の詰め込みではなく、人生の経験を積み、深い洞察を備えた「師匠」と「弟子」の対話による「智慧の教育」にあったとされております。これはまさに、O・P・バッラ博士が目指された、貴大学の崇高な全人教育の理念と、軌を一にするものでありましょう。
 貴大学におかれては、学生たち一人一人が、偉大な思考力と行動力を併せ持つとともに、各人が誠実に、地域社会と一体になって、価値創造のリーダーシップを発揮できるよう、薫陶されていると伺い、感嘆しております。

人の振舞こそ

 一、私は、若き日、恩師である戸田城聖先生より、一対一の個人授業を受けました。「戸田大学」というべき、全人教育の打ち合いでした。
 不屈の信念の教育者であった恩師は、第2次世界大戦中、日本の軍部政府と対峙して投獄され、2年間の獄中闘争を勝ち越えました。戦後の焼け野原に一人立って、新たな民衆の連帯を築き始めた恩師が、常に私たち青年に教えられたことがあります。
 かの釈尊の出世の本懐、つまり人生の根本目的は、何であったかという一点であります。それは、「人の振舞」であると示されたのです。
 そして、この究極の人間主義の生命哲理を継承し、一人の「人の振舞」に光を当て、変革しゆく「人間革命」の運動に、青年と共に挑戦したのであります。
 人間革命は、まさしく民衆のエンパワーメント(内発的な力の開花)を可能にする人間教育と一体であります。
 その意味において、「より良き人間の育成」を通して、社会の変革と民衆への貢献にまい進される貴大学の理念は、私ども創価教育の哲学と深く響き合うものであり、幾重にも不思議な縁を感ずるのであります。
 総長は、ご尊父の遺志を継ぐに当たり、ご兄弟として大切にされている信条を、こう語られております。
 「私たちは教育に“限界”はないと強く信じています。教育者として、私たちは日々学び、そして一日たりとも同じ日はないのです。それは、自分が可能だと思うことは何でも描くことができる、無地のカンバスのようなものです」
 まさに、教育における知恵と工夫と努力によって、人間の未来も、世界の未来も、無限に描き出していくことができる。この大確信を、私も総長と共有しております。
 マハトマ・ガンジーは叫ばれました。
 「人間にとって最も高邁な努力とは、困難にも退くことなく、自らの義務を果たし続けることにある」と。
 私も、本日よりは、貴大学の誉れある一員として、「マーナブ・ラチャナ(人間を創出する)」との大哲学を一段と高らかに掲げながら、尊敬する先生方と共に手を携え、愛するインド創価学会の不二の青年たちと一緒に、勇敢に進みゆくことを、ここにお誓い申し上げます。
 結びに、貴大学の永遠無窮のご繁栄と、ご臨席のすべての方々の限りないご健勝を、心よりお祈り申し上げ、私の御礼の言葉とさせていただきます(大拍手)。