〈世界広布の大道――小説「新・人間革命に学ぶ」〉 第12巻 御書編 2019年10月16日

〈世界広布の大道――小説「新・人間革命に学ぶ」〉 第12巻 御書編 2019年10月16日

 

 今回の「世界広布の大道 小説『新・人間革命』に学ぶ」は第12巻の「御書編」。小説で引用された御書、コラム「ここにフォーカス」と併せて、識者の声を紹介する。次回の「解説編」は23日付の予定。(「基礎資料編」は2日付、「名場面編」は9日付に掲載)

原則の順守が事故を防ぐ

【御文】
 さきざきよりも百千万億倍・御用心あるべし
 (御書1169ページ、四条金吾殿御返事)

【通解】
 以前よりも百千万億倍、用心していきなさい。

●小説の場面から

 〈ヨーロッパの中心者である川崎鋭治は、車の運転で事故を起こしてしまう〉
 事故には、必ず予兆があるものだ。
 川崎鋭治は、以前、雨のなかでハンドルを切り損ねて、大きな石に乗り上げ、車が転倒するという事故を起こしていた。この時は、怪我はなかったものの、車は廃車にせざるをえなかった。
 その直後、日本に来た川崎鋭治から話を聞いた山本伸一は、こう指導した。
 「これは、さらに大きな事故の前兆と受け止めるべきです。リーダーというのは、神経を研ぎ澄まし、一つの事故を戒めとして、敏感に対処していかなくてはならない。
 そうすれば、大事故を未然に防げる。
 これからは、もう交通事故など、二度と起こすものかと決めて、真剣に唱題し、徹して安全運転のための原則を守り抜くことです。
 また、疲労や睡眠不足も、交通事故を引き起こす大きな原因になる。だから、常にベストコンディションで運転できるように、工夫しなければならない。それが、ドライバーの義務です。(中略)
 運転しながら話をして、脇見をするようなことがあっては、絶対にならない。
 それから、幹部は、自分だけではなく、会合が終わったあとなどに、無事故と安全運転を呼びかけていくことも大事です。その一言が、注意を喚起し、事故を未然に防ぐ力になる」(「新緑」の章、52~53ページ)

愛郷の心が地域活性の源泉

【御文】
 今日蓮等の類い南無妙法蓮華経と唱え奉る者の住処は山谷曠野皆寂光土なり(御書781ページ、御義口伝)

【通解】
 いま南無妙法蓮華経と唱える日蓮とその門下の住所は、それが山であり、谷であり、広野であっても、すべて寂光土である。

●小説の場面から

 〈1967年(昭和42年)8月、山本伸一は岐阜・高山市を訪問。同志は郷土の発展を祈り、地域に尽くしていた〉
 村(町)おこしや地域の活性化は、どこでも切実な問題であるが、特に過疎の村や山間の地などにとっては、存亡をかけた大テーマであろう。
 だが、住民が、その地に失望し、あきらめをいだいている限り、地域の繁栄はありえない。
 地域を活性化する源泉は、住民一人ひとりの愛郷の心であり、自らが地域建設の主体者であるとの自覚にある。いわば、住民の心の活性化にこそ鍵がある。
 (中略)
 いかなるところであろうが、私たちが信心に励むその場所が、仏のいる寂光土となる。ゆえに創価の同志は、現実を離れて、彼方に理想や幸福を追い求めるのではなく、自分のいるその地こそ、本来、宝土であるとの信念に生き抜いてきた。
 そして、いかなる逆境のなかでも、わが地域を誇らかな理想郷に変え、「幸福の旗」「勝利の旗」を打ち立てることを人生哲学とし、自己の使命としてきた。
 地域の繁栄は、人びとの一念を転換し、心という土壌を耕すことから始まる。そこに、強き郷土愛の根が育まれ、向上の樹木が繁茂し、知恵の花が咲き、地域は美しき幸の沃野となるからだ。
 また、そのための創価の運動なのである。
 (「愛郷」の章、194~195ページ)

ここにフォーカス/第1号の対談集

 「天舞」の章に、クーデンホーフ・カレルギー伯爵と山本伸一との対談の様子がつづられています。
 伯爵は、28歳で欧州の統合を訴えた著書『パン・ヨーロッパ』を出版。第2次世界大戦の渦中、ナチス・ドイツの迫害を受け、亡命を余儀なくされますが、欧州統合の実現へ向け、行動を続けました。
 伸一との対談が実現した1967年(昭和42年)は、現在の欧州連合(EU)の前身である欧州共同体(EC)が誕生した年でもありました。
 創価学会を「世界最初の友愛運動である仏教のよみがえり」と評価していた伯爵は、伸一との対談の折にも、「創価学会による日本における仏教の復興は、世界的な物質主義に対する、日本からの回答であると思います。これは、宗教史上、新たな時代を開くものとなるでしょう」とたたえています。
 その後も2人の交流は続き、書簡のやりとりが重ねられます。70年(同45年)10月には、開校3年目の創価学園聖教新聞本社などで、国際情勢や青年論など、多岐にわたるテーマで、計10時間を超える語らいが行われました。
 2人の対談は、『文明・西と東』として出版されました。今、池田先生の世界の識者との対談集は80点に及びます。伯爵との対談集は、その第1号となったのです。

半世紀超す執筆に想う 識者が語る/ニューヨーク大学プラハチェコ)心理学部長 イデル・サンダース博士

●内面の変革が平和の第一歩

 私は、これまで池田博士のさまざまな著作や大学講演集を読んできました。
 中でも、印象に残っているのが、博士が1996年6月、私の母校でもあるアメリカ・コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで、世界市民教育をテーマに行った大学講演です。
 席上、博士は、同カレッジのレヴィン学長(当時)の「教育は、社会の変革のための最も効果の遅い手段かもしれない。しかし、それは、変革のための唯一の手段である」との信条に、深い共感を寄せられました。
 どういった点で、両者が響き合ったのか。私は学長の言葉の中に、博士の「人間革命」の思想に通じる部分があったからだと思います。
 そもそも良い教育は、人間の心といった内面を変革する「人間革命」を伴うものです。
 博士が綴ってきた小説『人間革命』『新・人間革命』には、SGIメンバーが各国・地域で直面した偏見や差別の歴史が描かれています。
 人間は誰しも、自身とは異なる他者への恐怖心を持っています。しかし、メンバーは内なる自己に働き掛けながら、勇気を持って他者に語り、多様性を尊重していく。これは、まさに良い教育の過程そのものであり、非常に価値あるものなのです。
 私は、あるアメリカの宗教学者から、SGIメンバーに対して行ったインタビューの感想を聞いたことがあります。
 メンバーには、自身の生活を向上させながら、社会に貢献する生き方が根付いていたそうです。そして、一人一人から、差別の心を感じなかったというのです。多くの仏教を研究してきたその学者は「SGIほど、人種や民族など、異なった属性を持った人々が集まるのは見たことがない」と語っていました。
 仏教は、長い時間をかけて築かれた「心の科学」と言ってもよいでしょう。日蓮は「心の師とはなるとも心を師とせざれ」(御書1025ページ)との指針を残し、それがSGIでは、メンバーの生き方に反映されています。そこには自身の心の成長を促す原理があります。
 私は心理学者として、また世界市民として、人々が心を成長させ、家族や社会に貢献する、幸福な人間になってほしいと思っています。
 ゆえに、小説に描かれる“一人の心の変革こそ、世界平和につながる第一歩である”との池田博士の考え方に、大きな期待を寄せています。

 Edel Sanders アメリカ・コロンビア大学修士号、イギリスのケンブリッジ大学で博士号を取得。2014年から現職。専門は教育心理学認知心理学

 ※『新・人間革命』の本文は、聖教ワイド文庫の最新刷に基づいています。

 【挿絵】内田健一郎 【題字のイラスト】間瀬健治