幽霊の正体

 

幽霊の正体が明らかに? 科学実験で「得体の知れない存在」の誘発に成功

 人類の長い歴史のなかで、常に、そして最も多くの人が不思議に感じていた事柄のなかに「幽霊は存在するのか」という疑問がある。実際、現代のテクノロジーをもってしても、証明できない事件や体験談は数多あり、メディアで報じられたり、映画の題材になるなどしてきた。

 見えないものにもかかわらず、どうしてそれほどまでに話題となり題材として取り上げられるのか――? やはり、解明できないミステリーだからこそ追求したくなるという、人間の心理がそうさせるのではないだろうか? そして今、何世紀にもわたって疑問とされてきな謎が、科学によって証明されようとしている。

■すべては脳による錯覚だった? 人工的に「幽霊」を感じさせた実験

 2014年11月7日、イギリスの大手タブロイド紙Daily Mailのオンライン版である「mailOnline」に掲載された衝撃のニュースは「幽霊は脳による錯覚だったことが、実験によって解明された」というものだった。

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 記事によると、スイスの研究者らが行った実験において、「目隠しした状態の被験者が、脳の感覚部分に影響する信号をロボットから送られた際の反応をみる」というものだった。これによって、参加した被験者は「幽霊に囲まれるような」感覚がしたのだそう。またとても狼狽し、そのうちの2名は今すぐ実験をやめるよう申し出たともいう。もちろんそこには誰かが立っていたわけでも、指で触れたわけでもない。しかし参加者らは、最高で4人の(幽霊の)気配を感じた、というのである。

 では、なぜ参加者らはそう感じたのか? 実はこの実験では、「実際の体の運動と脳の処理との間のプロセスをプログラムにより遅らせること」に由来しているという。

■どのようなプロセスがそう思わせるのか?『存在の感情』の原理

 では、その原理である『Feelings Of Presence(=存在の感情)』について触れてみよう。この感覚は、文字通り「存在を感じる感覚/感情」である。どういうことかというと、まず被験者は目隠しをされ、人差し指を前方の機械式アームロボットに繋がれている。この機械式アームは、その動きをプログラムによって制御できるようになっている。一方、被験者の背後には、別のロボットアームがあり、実はこの背後のロボットアームが被験者らの背中を実際に触っているのだ。これだけなら、少し気味が悪いというだけで何ら幽霊の気配などするはずはないが、これら2つのロボットを同時に駆使した時、それは起こった。

 前方で人差し指をつないでいたロボットが指を押し、それと同時に背後のロボットが背中に触れる。すると被験者らは、あたかも自分自身が指で背中に触れたように錯覚するのだという。 さらに、背中に触れるタイミングが指を押す動作から0.5秒遅れただけで、なんと見ず知らずの何か、あるいは誰かに見られている、触れられていると感じたのだそうだ。被験者のうち3人に1人は気味の悪い幽霊によるものだと感じ、同時に背後に漂う不気味な気配に混乱したのだそう。この際彼らが感じた「気配」は前述した「4人」が最高数だったが、全員を平均しても2人の(幽霊の)存在を感じていた。

■研究者らの見解――『実験では初となる「存在」の誘発に成功した』

 この実験を執り行ったチームの責任者である、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の教授、オラフ・ブランケ氏は、この実験を通じ、「幽霊の存在を諦めた」という。彼はプレゼンテーションのなかで、「私たちの実験は、『得体のしれない何か』の存在感を誘発することに成功した。それは単に、矛盾する感覚と運動信号を通して、通常起こり得ることである」と話している。また「ロボット・システムは、一部の精神障害患者の感覚に近い現象が健康な人物の脳内に模倣させることができた」「それが脳で彼ら自身の体の認識に影響したことを意味する」とも語っている。

 また同大学の教授で報告の共著者であるジュリオ・ログニーニ博士も「我々の脳は、空間のなかでの自身の体の表現をいくつか持っている。通常の条件下ではこれらの表現により、自己の統一された認識を組み立てることが可能である。しかし時に、システムの誤作動(この場合にはロボットによるものだが)自分自身で知覚しない第二の体による表現、すなわち自分によるものだと認識できない行動を表現することがある」と語っている。

 実験を行う前、研究者らは過去に「存在の感覚」に遭遇したことがある精神疾患患者12名の脳スキャンを行っている。その際彼らは、患者らの3つの特定の脳領域(島皮質・頭頂前頭皮質・側頭頭頂)において皮質障害を確認していた。これらの領域は自己認識・運動・空間内の位置感覚に関与している部分である。

■身体的・感情的な極限状態で現れやすい「存在」

 実は今回のような「目に見えないものを感じる感覚」というのは、自らの行動に忍び寄る何か、という点で背後霊や悪魔、あるいは,まぼろしとして一般的に感じられているものだ。その感覚がもっとも顕著に表れるのが、意外にも登山家や冒険家に多いというのだ。というのが、極端な身体的・感情的に高まった状態において、しばしばみられることによるのだそう。例えば、愛する人を失った直後に深く悲しんでいる時などでも当てはまるのだそうで、それらは時に身体的症状(てんかん、偏頭痛、精神分裂症やガンを含む脳への影響)を伴う病状と関連していることも少なくないというから驚きである。

 ちなみにこの「存在の感覚」が初めて世間に明らかとなったのはかなり古く、登山家のラインホルト・メスナー氏が1970年6月にヒマラヤ山脈を下山している際に体験したものだという。メスナー氏が下山していた際、彼の弟と2人で歩いていたのだが、疲れや酸素不足、凍結のなか、視界の外に明らかに自分たちと一定の距離を保って一緒に下山していた第三者の存在を感じていたのだという。この状況こそまさに、「極端な精神的・身体的な極限状態」だったといえる。

 宇宙人や巨人、雪男などの未確認生物と並び、常にいる・いないの論争の渦中にいる幽霊やおばけといった超常現象。今回の、科学的証明をもってしても存在を信じて止まない人はいるだろう。

 たしかに、この実験によって、多くの人が脳の誤作動による霊体験を「心霊体験」として語っている可能性が高いことが明らかになった。しかし、だからといって「幽霊はいない」と決めつけるのは早計だ。それでは「心霊写真・心霊動画」は一体何なのか? 複数人の同時霊体験をどう説明するのか? 「霊と会話した人物」がその内容を事実と照らし合わせた時に、合致した事実をどう説明するのだろうか? 「ポルターガイスト現象」は何なのか? 今後の科学的実験・調査に期待したい。(文=ODACHIN)