〈信仰体験 ブラボーわが人生〉第31回 

〈信仰体験 ブラボーわが人生〉第31回 103歳のひとりごと 2017年7月1日
「花いっぱい幸せいっぱい年いっぱい」
 【東京都足立区】「ただ長生きさせていただいてるだけ。大層なものは何もない」と、中野季さん(103)=西栗原支部、地区副婦人部長=はつつましやかに笑うが、さにあらず。何やら頭をポコポコたたくと、五七調が出てくるそうだ。これがまた傑作で、大学ノートや包装紙の裏に、自分の字で丁寧に書きためていらっしゃる。花鳥風月を歌い、日常生活の率直な視線で詠ずる。そんな103歳のひとりごと。今回はちょっぴりお裾分け。
 どっこいしょどっこいしょで長生きし
 手も足も使いすぎだとストライキ
 カタカナにふりがなほしい百年生
 支えられ長生きしてますありがとう
 一休みコーヒー入れて考えよう
 物事はプラスマイナス気の持ちよう
 わが宝育子律子と申します
 感謝して宝の人生生き抜こう
 生きること生き抜くことの日々挑戦
 心こそ大切なれとオモテナシ
 人生はかかわる人で変わるもの
 日々あらた明日は何が待っている
 ありがとうおかげさまです忘れまい
 花いっぱい幸せいっぱい年いっぱい
 恩返し皆の幸せ祈る日々
 わが宝よき師よき友よき家族
 白ゆりの笑顔かこんでグループ座
 十五夜に昔ばなしを語ろうか
 子に教え子に教えられる信心を
 福運も愚痴と文句で消えてゆく
 十界のわが生命の置きどころ
 仰ぎ見る落花浴びゆく車いす
 湯上がりの菖蒲で結ぶ洗い髪
 富士の如く仰がれてこそ敬老会
 凜と咲く白ゆりの香によみがえり
 残すまい心の隅まで大掃除
 かけ声で立ちふるまいドッコイショ
 桃かおる幸せ笑顔のだいりさま
 寝転んでレンゲ畑の空の色
 節分の豆の数両の手にあふれ
 青い空悪夢であれと終戦
 栗ごはん向き合う人の亡きゆうげ
 この先は分からねど買う五年日記
 信心のバトンタッチでゴールイン
 最高の人生なりと胸を張り
 終の日はさくらの花の散るごとく
 それご覧この素晴らしき実証を
 この命残る使命を果たすまで
 にぎやかにみんなで勝ちとれ東京凱歌
 師弟不二永遠に変わらじ師弟不二
 これからがわが人生の折り返し
  
 (本人いわく上級編)
 妙法の得難い同志の多ければ
         老いゆく年も忘れ去るなり
 生涯を青春と心に決めたれば
         楽しく生きん終の日までは
 悠々と指揮とり守る壮年部
         広布の使命勇気凜々
 輝ける笑顔に秘めし力あり
         広宣流布は婦人部に任せて
 天かける祈りの唱題月光の
         平和の声に和して虹立つ
 忍辱のよろいもいつかはほころびて
         繕うことの糸の強さを
 東京は墨田区の生まれ。7人きょうだいの4番目。幼い頃から引っ込み思案で、夏目漱石、森鷗外などの文学全集を友とした。
 時代に翻弄された若き日々。関東大震災で焼け出され、大空襲で逃げ惑った。家に焼夷弾が落ちたが、不発弾で命を拾った。戦地に散った息子の知らせに、「何が万歳だ」と膝から崩れた父と母は、戦後の混乱期の中、日本の夜明けを見ることもなく逝った。
 結婚すれば幸せになれると信じていた。吹けば飛ぶようなアパートに住んだ。夫が倒れて働けなくなると、着物を米にかえ、夜な夜な和裁の糸を通した。日々の食事にも事欠く暮らし。将来を悲観し、「子どもを連れて死のうと思った」。
 人生を強く生き抜く礎を得たのは1956年(昭和31年)。信心を始めた日、「わが家に太い柱が立ちました」。
 疑うことを持ち合わせず、「蒼蠅驥尾に附して万里を渡り碧蘿松頭に懸りて千尋を延ぶ」(御書26ページ)のままに折伏した。「あんたが貧乏から抜けたらやるよ」と笑われた。
 それでも師弟に生き抜いた。自身が「生涯の宝」と呼ぶ、池田先生との記念撮影(71年12月)には、姉が仕立てた着物で参加した。それからは「人生の師を持つってこと」を、力の限り語り歩いた。
 「しっぽの先っぽの先っぽにくっついてきた。今はもう最高の人生です」と笑う季さん。暮らしには「常備薬も補聴器もない」。趣味は「クロスワードパズル」。長生きの秘訣は「あんまり気にしないこと」。デイサービスは「まだ早い」。娘から「たまに動く化石と呼ばれてます」。好きな言葉は「吉川英治の『我以外皆我師』」。自慢といえば「私の周りにいい人ばかりが集まってんの」。信心60年、「やっぱり素直が一番ね。途中下車はだめよ」。これからの目標は「実証を示すことじゃないかしら」。最後に一言、「いつお迎えが来ても結構よ」。上品で機知に富む洒落を挟んだ取材中のラリー。お見事と言うほかない。
 座卓の上に、便箋をさりげなく置かれた。鉛筆の丁寧な字で五七調が並んでいた。顔を上げると温かい目をして「あなたに」と。
 〈初対面にっこり笑顔をプレゼント〉
 ここはすかさず返歌を一つ。
 〈ありがとう季さんほんとにありがとう〉
 このレベル……精進せねば。(天)