〈スタートライン〉 ㈱「和える」代表取締役 

SEIKYO online (聖教新聞社):インタビュー

〈スタートライン〉 ㈱「和える」代表取締役 矢島里佳さん 2017年7月8日

伝統文化を次世代につなぐ20代社長
あふれるモノの消費から智慧を大切にする暮らしへ

 現代的で便利な暮らし。モノがあふれる一方で、見失いがちな視点がある。㈱「和える」社長の矢島里佳さんは、“日本の伝統を次世代につなぎたい”と、学生時代に同社を設立。日本の伝統技術を活用した“0から6歳の伝統ブランドaeru”を展開し、日本の伝統文化の視点から見た価値を再発信している。伝統品の魅力や夢を実現するポイントなどについて話を聞いた。

職人との出会いで人生が変わった

 日本の伝統が息づく古都・京都。市内の一角に、木造の京町家を修繕した㈱「和える」の直営店がある。
 店頭には、徳島県産の〈本藍染の産着〉や、青森県で作られた〈津軽塗りのこぼしにくいコップ〉等、伝統技術で磨き上げられた品々が丁寧に並べられている。
 特徴的なのは、製品が幼少期から使えるということだ。
 「“日本の伝統文化を次世代につなぎたい”という想いから、会社は出発しました。
 未来を担う子どもたちに、本当に贈りたい日本の物をお届けしたいと、直営店では“0から6歳の伝統ブランドaeru”の製品を販売しています」
 一つ一つの品が、矢島社長自ら日本各地を回り、職人と語り合いながら、生み出されてきたもの。価格は決して安くはないが、出産祝いやお食い初め用の贈り物として人気も高い。
 矢島さんが日本の伝統文化に興味を持ったのは、中学・高校で茶華道部に所属したことだった。
 やがて、“伝統職人に話を聞いてみたい”と考えるようになる。
 その願いがかない、大学時代には、旅行会社が手掛ける季刊誌の連載を受け持つことになった。
 「連載で全国の職人さんを取材する中で、職人さんの、ものづくりへの真剣な姿勢に刺激を受けました」
 職人との出会いに触発され、心の中に、“次世代に伝統をつなぐ仕事をしたい”という火がともった。そして、大学4年の時、会社を立ち上げた。社名は「和える」と付けた。
 「お料理で『和える』って使いますよね。それと同じ意味です。日本の伝統や先人の智慧と、今を生きる私たちの感性を『和える』のが、会社の役割です。
 『和える』と『混ぜる』は違います。伝統と今をごちゃ混ぜにするのではなく、それぞれの魅力を活かしていきたいのです」

日本文化に根付く「お直し」の技術

 “もったいない”という言葉に象徴されるように、日本では、モノを尊び、壊れても捨てずに修復する習慣が根付いてきた。
 「陶磁器やガラスの製品は、割れたり欠けたりしても、『金継ぎ』という方法で『お直し』できるんですよ。漆器も塗り直せますし、和紙でできたものも、すき直すことができます」
 陶磁器や漆器は、壊れたら捨てざるを得ないと誤認している人も多い。消費社会が進展し、日本人には、“壊れたら捨てる”という感覚が自然と身に付いてしまった。
 「お直しの魅力の一つは、壊れる前よりも製品に味が出ることです。使い続けることで愛着も湧いていきます。
 “aeru”でも、製品のお直しを承っていますが、このお直しという技術自体が、日本の伝統的な無形の智慧です。子どもたちにも、お直しの魅力をお伝えしたいです」
 日本人の心が、より豊かになっていくためには、一人一人が「消費者」から、賢い「暮らし手」に変わっていく必要があるという。
 「もちろん、消費により経済は発展しました。でも、消費のために、捨てる・買うを繰り返すのは、何だか悲しいですよね。
 あふれるモノを消費する生活を見直し、伝統文化がもつ有形無形の智慧や、モノを大切にする暮らしに目を向けることで、心が豊かになっていくのではないかと感じています」

声に出すことで夢が現実になる

 22歳で起業し、自分の望む仕事を実現した矢島さんだが、夢をかなえるポイントは何だったのだろうか。
 「想いを“秘める”のではなく、“声に出す”ことですね。『日本の伝統産業の仕事がしたい』と、とにかく声に出し続けてきました。今も、“こうしたい”と思ったことは、言い続けています。
 あと、あまり高い目標を設定しないこと。社長になって、重圧を感じたことがないのですが、それは、あえて高すぎる目標を立てないからです。
 目標の立て方も一つの技術みたいな部分があります。私は、小さい目標を設定して、小刻みに達成するようにしています。達成できた自分を素直に褒めることで、自信も生まれます」
 やりたいことが見つからない場合は、どうすればいいのか。
 「やりたいことが分からないという声も、たくさん耳にします。でも、そういう時は、自分が“まだ決めていない時”です。目の前には、いっぱい選択肢があります。
 その中には、興味があることもあるはずです。まずは決めて、挑戦してみることではないでしょうか」
 今、矢島さんは「伝統産業」の世界と「伝統工芸」の世界を“和えよう”としている。
 「伝統産業は、伝統技術を日用品に織り込む世界で、手に取りやすいものです。
 伝統工芸は、『一点物』に見られるように、時間と技術を惜しみなく注ぎ、製品を創り上げる世界です。
 伝統産業と伝統工芸は両輪です。伝統工芸によって技術が引き上げられることで、伝統産業の質も向上していきます。
 伝統技術は、自然と継承されていくものではありません。“つなぐ人”がいて、初めて伝わっていくもの。『和える』がそれぞれの伝統産業の“横串”となって、日本の伝統を次世代へつないでいきたいのです」

 やじま・りか 1988年、東京都生まれ。大学4年の2011年、㈱「和える」を創業。慶應義塾大学卒業。12年、“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げた。14年、東京直営店「aeru meguro」、15年には京都直営店「aeru gojo」をオープン。同年、日本政策投資銀行(DBJ)の女性起業大賞に輝いた。『和える』(早川書房)、『やりがいから考える自分らしい働き方』(キノブックス)などを著している。

 【編集】松崎慎一 【写真】荒木稔、綿谷満久 【レイアウト】竹内貴洋