南米の名門・ベネズエラ中央大学が池田先生に「名誉博士号」 池田先生の謝辞(代読) 2019年6月12日

南米の名門・ベネズエラ中央大学が池田先生に「名誉博士号」 池田先生の謝辞(代読) 2019年6月12日

教育という究極の聖業が懸ける 勇気・智慧・創造の希望の橋
「よく来たね。うれしい。本当にうれしい!」――ベネズエラから来日した青年部の代表をたたえ、固い握手を交わす池田先生ご夫妻(2007年3月、創価大学で)
 

 一、東洋の金言に「道のとを(遠)きに心ざしのあらわるるにや」とあります。
 はるか1万4千キロ離れたカラカスの天地より、先生方が、どれほど深く篤い志で、万難を排し、ご来学くださったか。私は感無量であります。
 本当にようこそ、お越しくださいました。
 本日ここに、ラテンアメリカ最高峰の歴史と伝統を誇る貴・ベネズエラ中央大学から、栄えある名誉博士号を授与いただきました。
 ありがたくも、今この時に賜りました知性の宝冠を、私は何よりもまず、愛する祖国の平和と繁栄を祈り、熱誠の貢献を貫いているベネズエラの尊き宝友と分かち合わせていただきたいのであります。
 ベネズエラSGIのサラス理事長も同行されており、これほどうれしいことはありません。
 先生方、誠に誠にありがとうございます(大拍手)。
 ベネズエラ最古の名門であられる貴大学は、1721年、日本でいえば江戸時代の享保年間に創立され、明後2021年に300周年という大佳節を迎えられます。
 2021年は、わが創価大学にとりましても創立50周年であります。
 きょうは、最優秀の留学生をはじめ創大生、短大生の代表も参列してくれております。
 幾世紀の風雪を厳然と越えてこられた大先輩の学城を仰ぎ見つつ、教育という究極の聖業が懸けゆく三つの高く光る希望の「橋」を共々に確認し合いたいと思うのであります。

学は不幸を倒す

 一、第一に、艱難を勝ち越えゆく「勇気の橋」であります。貴大学はモットーに「闇を打ち破る学府」と掲げておられます。
 創立以来、各分野に卓越した人材を綺羅星のごとく送り出して、まさしく時代の闇を打ち破りながら、貴国の誕生と独立、さらに躍進の原動力となってこられました。
 内戦や動乱、さらに1900年の大地震など打ち続く試練や危機に際しても、「教育の光」を勇敢に灯し、社会と民衆を照らしてこられた足跡は不滅であります。
 その精神を現代に生き生きと蘇らせて、不撓不屈の「勇気の橋」を懸けておられるのが、貴大学初の女性総長として活躍されるガルシア=アロチャ・マルケス総長であり、本日、ここにお迎えした英邁な先生方なのであります(大拍手)。
 日本が第2次世界大戦の敗戦を迎えた時、私は17歳でした。混迷を極める戦後社会にあって、座右の銘と決めて部屋に飾った二つの言葉があります。
 一つは「波浪は障害にあうごとに、その頑固の度を増す」、一つは「艱難に勝る教育なし」であります。そして、その後、永遠の師匠と仰ぐ戸田城聖先生にお仕えする中で、この座右の銘そのままに疾風怒濤の青春を生き抜いてきました。
 恩師から徹底して薫陶されたことも、“一番大変な時にこそ一番偉大な勇気を奮い起こして戦うのだ。そうした勇者を育てるのが、真の人間教育だ”ということであります。
 私自身、愛する創価同窓生たちに「学は不幸を倒す力」であり、「学は無限の希望」であると、強く訴えてきました。
 いかなる艱難にも、いよいよ喜び勇んで立ち向かう賢者の連帯で、私たちは怒濤逆巻く社会と世界に「勇気」即「希望」の橋を築き上げていきたいと思うのであります。

「小さな声」を聴く崇高な理念と行動

  一、第二は、民衆を結び高めゆく「智慧の橋」であります。
 貴大学の校歌には、「大地に立つ農民」「大海原の船乗り」など、けなげに生きる庶民への深い愛情が謳われております。
 そして「母校は 民衆の声を救い出す 開かれた議会である」と高らかに宣言されているのであります。
 民衆の「小さな声」に耳を傾け、人々の幸福のために尽くされゆく、貴大学の崇高な理念と行動は、創価の教育思想と強く響き合うものです。 
 貴大学の気高き先人たちが、時に命を賭して、学問の自由を守り通し、社会を改革していかれたように、創価教育の父・牧口常三郎先生も、日本の軍部政府の弾圧と対峙し、獄中において正義の信念に殉じました。今月は、この牧口先生の生誕148周年に当たっており、貴大学からの最高の栄誉を、私は先師に謹んで捧げさせていただくものであります。
 この先師が訴え続けた根幹こそ、「子どもの幸福」のための教育であります。とともに「民衆の幸福」のための人道的競争なのであります。
 残念ながら今、国際社会は至るところで亀裂が生じ、分断を深めております。だからこそ、何にもまして「子どもの幸福」「民衆の幸福」という一切の原点に立ち返って、そのために智慧を出し合い、大同団結をしていくべきではないでしょうか。
 貴大学の誉れの卒業生で、国民的作家のエロイ・ブランコが学生たちに呼び掛けた詩に、私は魂を揺さぶられました。
 「なすべきことは より良い人間になること」
 「そして いつか他者を照らすことだ」
 「仲間に与える人間になってほしい 仲間の幸福のために戦い 決して孤立しないでほしい」と。
 この詩のごとく、若き世界市民たちが力を合わせて、地球民族の「仲間の幸福」のために、民衆を結び高めゆく「智慧の橋」を広げてくれることを、私は願ってやみません。

独創的音楽教育 エル・システマ

  一、第三は、平和な未来を開きゆく「創造の橋」であります。
 貴大学の立つ首都カラカスには、「永遠の春の都」との異名があると伺いました。何と麗しく、希望に満ちた響きでしょうか。
 「冬は必ず春となる」――これは、私と妻が心から信頼する、ベネズエラの母たちの合言葉です。
 大宇宙の慈悲のリズムのように、人間の生命にも、試練の冬を凱歌の春に転じゆく力が秘められています。その一人一人の力を解き放っていくところに、人間教育の真髄があるといえましょう。
 貴大学に学んだ巨匠ロムロ・ガジェゴスの小説では、教育の力を体現する主人公の一人について、こうつづられています。
 「彼の果たすべき本当の使命とは、力ずくで悪を根絶することではなく、大地と人々に備わる慈悲心の隠れた源をあちこちに見出すことだった」(寺尾隆吉訳、ロムロ・ガジェゴス著『ドニャ・バルバラ』現代企画室)と。
 ユネスコの「世界遺産」にも登録されている貴大学の国際色豊かな芸術のキャンパスには、多彩な価値や文化への開かれた精神が光り、生命の歓喜の春を広げゆく創造的知性が脈打っております。
 貴国が生んだ独創的音楽教育「エル・システマ」は、若人を貧困から救うべく、就学前の幼児から20代の青年まで、音楽の知識や技術を無償で授け、自尊心や協調性、さらに未来への希望を育みゆく世界の先駆的挑戦であります。
 ベネズエラSGIの集いにおいても、この音楽教育から誕生した「シモン・ボリバル交響楽団」が見事な演奏をしてくださり、感謝に堪えません。
 暴力や破壊の衝動が渦巻く時代だからこそ、人間主義の対話と平和の文化を基調として、明るい和楽の未来を開く「創造の橋」を一段と堅固にしていきたいと、私は願う一人であります。
 ともあれ、最も苦労した民衆こそが、最も幸福に輝く権利がある。いな断じて、そうあらしめねばならない。ここに、先師・恩師から私が受け継ぎ、後継の青年たちに託す断固たる誓いがあります。
 貴大学の紋章には、知性を表す本やペンなどとともに、平和を象徴するオリーブと、勝利の象徴のヤシの枝が描かれております。
 私も名誉ある貴大学の一員として、尊敬する先生方とご一緒に、この紋章さながらの「平和」と「勝利」のために、終生、道を開き、橋を懸けていく決心であります。
 最後に、敬愛してやまない貴国の平和と安穏、そして貴大学の永遠無窮の栄光を心よりお祈り申し上げ、私の謝辞とさせていただきます。
 ムーチャス・グラシアス!(スペイン語で「大変にありがとうございました!」)(大拍手)。